ウサギと亀

ウサギと亀
日本人なら誰もが知っている昔話です。
足の速いウサギが己の能力を過信し油断したがゆえに、
コツコツと地道に歩き続けたノロマな亀に敗れてしまう。

この物語が示唆するのは、
いわゆる『努力に勝る天才なし』という教訓です。
どれほど高い能力や才能を持っていても、
その上にあぐらをかいて怠ければ、
地道に努力を積み重ねる凡人に足元をすくわれてしまう。

洋の東西を問わず、今も昔も変わらない不変の教訓です。
ウサギと亀から学ぶ教訓は?と聞かれたら、おそらくほとんどの人が、
この『努力に勝る天才なし』という意味合いのことを答えるのではないでしょうか。

ところが、
この物語には、もう一つ教訓が隠れています。
それは、
『ウサギは亀ばかり見ていた。亀はゴールだけを見ていた。』というもの。

つまり、
ウサギは競争相手である亀の動向ばかりを気にしていたため、つい油断してしまった。
対する亀は、ウサギを気にせずゴールだけを見て、
ひたすらゴールに向かって歩き続けたことで勝利を得た。
『目的への意識の差』が勝敗を分けたのです。

ライバルやまわりを気にせず、ひたすら目標に向かって努力する。
『一意専心』の大切さを示した教訓と言えるでしょう。
(この教訓は月刊誌・致知で、ある落語家のエピソードから学びました)

この隠れたの教訓を知った時、たいへん感銘を受けました。
以来、ウサギと亀が示すこの2つの教訓、
『努力に勝る天才なし』と『一意専心』を、
常に心の中で意識して仕事に取り組むことを誓いました。

しかし、心の中に何となく釈然としない想いが残っていました。
小さな違和感を抱えたまま、それから数年の月日が流れます。

その日、朝7時半頃、
いつものように都内の現場に向かって車を走らせていました。
朝7時半ともなると、都心のオフィス街や霞が関の官庁街では、
足早に職場に向かう人達をたくさん見かけます。
おそらく彼・彼女らは、出勤時間より随分余裕をもって出勤しているのでしょう。
早朝の静かなオフィスで、ある人はその日の仕事の準備を、
ある人はスキルアップするための勉強を、
常に高い向上心を持って日々の仕事に取り組んでいる人たち。

そんな彼・彼女らの颯爽と歩く姿を見ながら、
『きっと、こういう人たちが日本を支えている真のエリートなんだろうな』
と、感じていました。

そんなことを考えながら交差点で信号待ちをしている時、
ふと横を見ると、早朝にもかかわらず行列が出来ています。
思わず目が止まりました。

その行列の先頭は、新装開店の花輪が立ち並ぶパチンコ屋さん。

その光景を目にした瞬間、
それまでずっと釈然としなかった想い、
心の中に引っかかっていた違和感がスッと解消しました。

『ウサギは寝てなんかいない。サボってるのは亀のほうだ。』

私が感じていた違和感は、
教訓と現実の間にあるギャップだったのです。

そうです。
教訓とは正反対なのです。
現実の世の中では、能力の高いウサギほど努力を怠らず、
能力の低い亀のほうがむしろサボっているのです。

もちろん、地道に努力をする亀もいるし、怠けてるウサギもいます。
しかし、よくよく世の中を見回してみると、逆のほうがあきらかに多いのです。
能力が高く、いわゆるエリートと呼ばれるウサギたちのほうが、
亀よりも圧倒的に努力をして、亀よりも圧倒的に長時間働いているのが現実なのです。

『ウサギは寝てなんかいない。サボってるのは亀のほうだ』
このことに気づいて、
自分自身のこれまでの人生や仕事ぶりを振り返ってみた時、
自分自身が、サボっている亀だったことを自覚しました。

こうして、ウサギと亀の話から3つ目の教訓を学んだのです。

一つ目の教訓が『努力に勝る天才なし』
二つ目の教訓が『一意専心』
そして三つ目の教訓が
『ウサギは寝てなんかいない。サボっているのは亀のほうだ』

自分自身がサボっている亀だったと気付いた私は、
せめて歩き続ける亀になろうと決意しました。
能力の高いウサギたちは既にかなり先を行ってます。
仮に、これからサボらずに歩き続けたとしても、
そもそもウサギのほうが足が速いのだから、
追いつくことなど到底出来るワケがありません。

とは言え、
小さいながらも会社経営者という立場です。
このまま離され続けるわけにはいきません。
何とか、少しでもウサギたちとの差を縮めたい。

そのためには、亀なりに速度を少しでも速める必要があります。
何か良い手段はないか?
亀の足を速くする方法はないのか?
模索する日々が続きました。

そんな時に出会ったのが『嫌われ仕事』だったのです。

と言っても、『嫌われ仕事』は手段ではありません。
また、方法でもありません。
亀の速度を速めるためにローラースケートを履かせることは出来ません。
筋肉増強剤を打つわけにもいきません。
厳しいトレーニングで鍛えれば、多少は速くなるかもしれませんが、
所詮亀は亀、スピードではウサギに勝てません。
亀の足をウサギ並に速くする手段や方法はないのです。

『嫌われ仕事』は手段ではありません。
方法でもありません。
『嫌われ仕事』は道なのです。
目的地へと続くルートの一つなのです。

エリートであるウサギ達が敬遠する、険しく荒れ果てたケモノ道。
雑草が生い茂った道なき道。外敵も多く、猟師の罠が仕掛けてあるかもしれない。。
汚い、危険、キツイ、くさい、怖い、悪条件だらけのケモノ道。
だけど、そのケモノ道の向こうには、
誰も行ったことがない素晴らしい世界が広がっています。
誰も嫌がって行かないため、手付かずの楽園が残っているのです。

『嫌われ仕事』はそんなケモノ道です。

ウサギたちは整備された道をビュンビュンと猛スピードで走っていて、
既にはるか彼方まで進んでいます。今からでは絶対に追いつけません。
ウサギたちが目指す楽園に亀が到着した頃にはもう遅いのです。
既に果実は食べ尽くされているでしょう。
亀が果実を得るためには、ウサギたちとは違う道を行くしかないのです。
まだ誰も手を付けていない未知の楽園を目指すしかありません。

『嫌われ仕事』は未知の楽園へと続くケモノ道です。
行くか行かないか、ただそれだけ。
出来るとか出来ないとかはありません。誰でも出来ます。
そのルートへ進むか進まないか、ただそれだけなのです。

今このコラムを読んでいるあなたは、
私と同じようにサボり癖のある亀でしょうか?
それとも地道に歩き続けている真面目な亀でしょうか?
いずれにしても、ウサギではないと思います。

本書「自分を磨く『嫌われ仕事』の法則」は、
そんなあなたのために書きました。
亀である私が書きました。
亀であるあなたのために書きました。
亀であるあなたが、少しでもウサギとの差を縮められるように書きました。
亀であるあなたが、仕事で成果を上げ、より良い人生を送れるように書きました。
亀であるあなたが、新しいルートを切り拓いて未知の楽園を発見することで、
ウサギも含めた世の中全体が幸せになれるように願いを込めて書きました。

サボり癖のある亀だった私は、
『嫌われ仕事』のルート発見し、そのケモノ道を進むことで、
ビジネスマンとして人並み以上の成果を上げることが出来ました。
新しい市場を開拓し、数多くの問題を解決し続けてきました。
『嫌われ仕事』に取り組むことで、多少なりとも社会に貢献してきました。
沢山のお客様に支持して頂いています。
今でも相変わらず「ノロマな亀」であることに変わりはありませんが、
「世の中から必要とされる亀」になったと自負しています。

『嫌われ仕事』のルートはケモノ道です。決して楽ではありません。
ハイヒールやサンダル履きで気軽に行けるような道ではありません。
しかし、亀である私やあなたが、より良き人生を送るための最善のルートです。
亀である私やあなたこそが進むべき道なのです。
『嫌われ仕事』は、あなたの人生をより素晴らしいものに変える道なのです。